未経験から経理職を目指すには?知識ゼロから始めるキャリア戦略

未経験から経理職を目指すには?知識ゼロから始めるキャリア戦略


最終更新日:2025/09/13

その「安定」は本物ですか?

その「安定」は本物ですか?

「景気に左右されない、安定した仕事がしたい」。

「専門スキルを武器に、長く働けるキャリアを築きたい」。

「会社の経営を支える、やりがいのある仕事に就きたい」。


キャリアチェンジを考えるとき、多くのビジネスパーソンが一度は「経理」という職種に魅力を感じるのではないでしょうか。

企業の血液とも言える「お金」の流れを管理し、経営の根幹を支える経理職は、確かに安定性と専門性を兼ね備えた、魅力的なキャリアの一つです。


しかし、その安定というイメージの裏側で、経理の仕事が今、大きな変革の波に直面していることを、どれほどの人が認識しているでしょうか。

AIやRPAによる業務の自動化は、かつて経理の主業務であった「入力」や「仕訳」といった定型作業を、人間の手から奪いつつあります。

「未経験者でも可能」という求人の裏には、こうした単純作業を担う人材を求める意図が隠れている場合も少なくありません。


漠然とした安定への憧れだけでこの世界に飛び込むことは、AIに代替されるキャリアの袋小路に迷い込むリスクを伴います。

これからの時代に求められるのは、単なる「作業者」としての経理ではなく、数字の裏側にあるビジネスの息吹を読み解き、経営者に的確な示唆を与える「戦略的パートナー」としての経理です。


今回の紹介の目的は、未経験から経理を目指すあなたの挑戦を、より確実で、より価値あるものにするための、実践的な「キャリア戦略」を紹介することです。

経理という仕事の本質的な価値、多様なキャリアパス、知識ゼロからプロを目指すための学習ロードマップ、そして、AI時代を生き抜くための差別化戦略まで。

安定の先にある、本当のプロフェッショナルへの道を、共に探求していきましょう。


なぜ「未経験」でも経理職を目指せるのか?

なぜ「未経験」でも経理職を目指せるのか?

「経理は専門職」というイメージが強いにもかかわらず、求人市場では「未経験者歓迎」の募集が数多く存在します。

なぜ、企業は経験のない人材を経理として採用しようとするのでしょうか。

その背景にある、経理職ならではの需要と、未経験者が直面する現実を理解することは、キャリア戦略を立てる上で不可欠です。


企業規模を問わない、普遍的な需要

経理という機能は、企業の存続に不可欠な、まさに「心臓部」です。

売上があり、費用が発生する限り、どのような規模の、どのような業種の企業であっても、必ず経理業務は発生します。

この普遍的な需要が、経理職の安定性の根源であり、常に一定数の求人が市場に存在し続ける、大きな理由となっています。

特に、中小企業では、一人の担当者が経理だけでなく、総務や人事といった管理部門の業務を幅広く兼任することも多く、ポテンシャルのある未経験者を採用し、自社で育てていこうというニーズが根強く存在します。


第二新卒・若手層への期待

多くの企業、特に中小企業やベンチャー企業では、経理部門の将来を担う、若手人材の確保が重要な課題となっています。

経験豊富なベテラン層だけでなく、新しい知識やITツールに対する吸収力が高く、柔軟な思考を持つ若手層を未経験から採用し、長期的な視点で育成したいという考えです。

これは、前職での経験よりも、学習意欲や人柄、ポテンシャルを重視する「ポテンシャル採用」であり、未経験者にとっては大きなチャンスとなります。


「未経験者歓迎」求人の実態-2つのキャリアパス

ただし、「未経験者歓迎」という言葉が、必ずしも華やかなキャリアのスタートを約束するものではない、という現実も直視する必要があります。

その求人の裏には、大きく分けて2つの異なるキャリアパスが想定されています。


アシスタント業務からのスタート

一つは、経理部門のアシスタントとして、まずは定型的な業務からキャリアを始める道です。

具体的には、伝票の入力や整理、請求書の発行、小口現金の管理といった、比較的マニュアル化しやすい業務が中心となります。

これらの業務を通じて、経理の基本的な流れや、勘定科目といった基礎知識を実践的に学ぶことができます。

ここから経験を積み、徐々に月次決算や年次決算といった、より専門性の高い業務へとステップアップしていくのが、一般的なキャリアパスです。


シェアードサービスやアウトソーシング企業でのキャリア

もう一つは、大企業の経理業務を専門に請け負う、シェアードサービスセンターや、経理代行(アウトソーシング)企業でキャリアをスタートする道です。

ここでは、特定の業務(例えば、売掛金の管理や、経費精算の処理など)に特化して、大量の業務を効率的にこなすことが求められます。

標準化されたプロセスの中で、特定の分野のスキルを深く掘り下げることはできますが、企業全体の経営に関わるような、幅広い経験を積む機会は限定的になる可能性があります。


どちらの道を選ぶにせよ、重要なのは、「その仕事を通じて、どのようなスキルが身につき、将来どのようなキャリアに繋がるのか」を、入社前に具体的にイメージすることです。

経理職への扉は、未経験者にも広く開かれています。

しかし、その扉の先に広がる景色は、一つではないのです。


経理の仕事とは?

経理の仕事とは?

経理の仕事は、単に日々の伝票を処理するだけではありません。

それは、企業の経済活動を正確に記録し、経営の意思決定に不可欠な情報を提供する、極めて知的で戦略的な仕事です。

ここでは、経理業務の全体像を「日常業務」から「年次業務」までの時間軸で捉え、その先に広がる多様なキャリアパスを紹介します。


経理業務の年間サイクル

経理の仕事は、日・月・年という、明確なサイクルで動いています。


日常業務(日次業務)

日々発生する、企業の経済活動の基本単位を記録・管理する業務です。

・現金の出納管理

・伝票の起票と整理

・経費の精算

・売掛金・買掛金の管理


月次業務

1ヶ月分の取引を集計し、経営層に報告するための財務諸表を作成する、重要なプロセスです。

・月次決算(試算表の作成)

・請求書の発行と入金確認

・給与計算と支払い

・取引先への支払い


年次業務

1年間の企業活動の総まとめであり、会社の「成績表」とも言える、決算報告書を作成する、経理部門にとって最も重要な業務です。

・年次決算(貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書の作成)

・法人税などの税務申告

・株主総会のための資料作成

・監査法人への対応


経理職の多様なキャリアパス

経理としての基礎を固めた後、その専門性を活かして、多様なキャリアを築いていくことが可能です。


ゼネラリストとしての道:経理・財務のプロフェッショナルへ

経理部門内で経験を積み、月次・年次決算を一人でこなせるようになった後、資金調達や予算管理、IR(投資家向け広報)といった「財務」の領域へと専門性を広げていくキャリアパスです。

最終的には、企業の財務戦略全体を統括するCFO(最高財務責任者)を目指すことも可能です。


スペシャリストとしての道:特定分野の専門家へ

特定の分野に強みを持ち、その道の専門家としてキャリアを築く道です。

・税務スペシャリスト:法人税や消費税、国際税務などに精通し、企業の税務戦略を立案する。

・管理会計スペシャリスト:事業部別の採算管理や、コスト削減の提案など、経営の意思決定に直接貢献する。

・IFRS(国際財務報告基準)スペシャリスト:グローバル企業の会計基準に対応する専門家。


他分野へのキャリアチェンジ

経理で培った、数字を読み解く力や、ビジネスの構造を理解する力は、他の職種でも非常に価値の高いスキルです。

・経営企画:予算策定や、M&Aの検討など、全社的な経営戦略の立案に関わる。

・内部監査:企業の業務が、法令や社内規程に則って正しく行われているかをチェックする。

・コンサルタント:会計や財務の専門知識を活かし、クライアント企業の経営課題を解決する。


経理の仕事は、キャリアの「終着駅」ではなく、多様な可能性に繋がる非常に奥の深い職種なのです。


知識ゼロから経理のプロを目指すための実践プラン

知識ゼロから経理のプロを目指すための実践プラン

「経理職に就きたい」という目標が定まったら、次はその目標を達成するための具体的な学習計画を立てるステップです。

未経験から経理を目指す上で、専門知識の習得は避けて通れません。

しかし、闇雲に学習を始めても、挫折してしまう可能性が高いでしょう。

ここでは、知識ゼロからでも、着実に、そして効率的に専門性を身につけるための、実践的な学習ロードマップを紹介します。


ステップ1:簿記の基礎を固める-全ての土台となる「会計の言語」

経理の仕事は、「簿記」という共通言語の上に成り立っています。

企業のあらゆる経済活動を、貸借対照表や損益計算書といった財務諸表に落とし込むための、基本的なルール。

それが簿記です。

この言語を理解せずして、経理のプロフェッショナルになることは不可能です。


学習目標

まずは、日商簿記検定3級の合格を、最初の具体的な目標として設定することをお勧めします。

3級では、経理の基本的な概念である「仕訳」や、財務諸表の作成プロセスといった、経理の仕事の根幹をなす知識を体系的に学ぶことができます。


推奨アクション

市販のテキストや問題集、あるいはオンラインの学習講座を活用して学習を進めます。

重要なのは、単に知識を暗記するだけでなく、なぜそのような処理をするのか、その背景にある会計の原則を理解することです。

3級の知識が身につけば、企業の財務諸表を見て、その会社の財政状態や経営成績の概要を読み解くことができるようになります。


ステップ2:実務で求められるPCスキルを習得する

現代の経理業務は、会計ソフトとExcelなしには成り立ちません。

簿記の知識と並行して、これらのツールを自在に使いこなすためのPCスキルを習得しておくことが、即戦力として評価されるための鍵となります。


会計ソフト

弥生会計やfreee、勘定奉行など、中小企業で広く使われている会計ソフトの基本的な操作方法に慣れておくと、就職・転職活動で有利に働きます。

多くのソフトが無料体験版を提供しているので、実際に触れてみると良いでしょう。


Excelスキル

経理の実務では、会計ソフトから出力したデータを、Excelを使って加工・分析する場面が非常に多くあります。

基本的な関数(SUM、IF、VLOOKUPなど)はもちろん、大量のデータを効率的に集計・分析できる「ピボットテーブル」のスキルは、必須と言っても過言ではありません。

MOS(マイクロソフト オフィス スペシャリスト)などの資格取得を目指すのも、スキルを客観的に証明する上で有効です。


ステップ3:簿記2級への挑戦-「商業簿記」から「工業簿記」へ

日商簿記3級が「経理のパスポート」だとすれば、2級は「プロフェッショナルへの登竜門」です。

多くの企業が、経理職の応募条件として、日商簿記2級以上の知識を求めています。


学習目標

2級では、3級で学んだ商業簿記に加え、製造業における原価計算などを扱う「工業簿記」という新しい領域が登場します。

これにより、より複雑な会計処理に対応できるようになり、企業のコスト構造を理解する力が養われます。

また、連結会計の基礎など、より高度な会計知識も学びます。


2級取得の価値

日商簿記2級を取得していることは、経理職への強い意欲と、基礎的な専門知識を習得していることの、何よりの証明となります。

未経験者であっても、2級を保有していれば、選考の場で他の候補者と大きな差別化を図ることができ、採用の可能性を格段に高めることができます。


ステップ4:関連知識への展開-経理の枠を超える視点

経理のプロフェッショナルは、会計の知識だけでなく、それに関連する法律や税務の知識も求められます。


税務の基礎知識

法人税や消費税が、どのような仕組みで計算され、納付されるのか。

その基本的な知識を身につけておくと、年次決算業務への理解が深まります。

「法人税法能力検定」や「消費税法能力検定」といった資格も、専門性を示す上で有効です。


会社法や関連法規

給与計算に関わる労働基準法や、契約書のリーガルチェックに関連する民法など、経理業務は様々な法律と密接に関わっています。

全ての法律を網羅する必要はありませんが、自らの業務に関連する法律の基本を学んでおくことは、リスク管理の観点からも重要です。


このロードマップは、あくまで一つのモデルケースです。

重要なのは、自らのキャリアプランに合わせて、学習の優先順位をつけ、継続的に学び続ける姿勢です。


未経験から経理職の扉をこじ開ける実践術

未経験から経理職の扉をこじ開ける実践術

学習ロードマップを歩み、簿記の資格という武器を手に入れたあなた。

次なるステップは、いよいよ実践の場、すなわち就職・転職活動です。

未経験というハンデを乗り越え、数ある候補者の中から「この人を採用したい」と思わせるためには、戦略的なアプローチが不可欠です。


職務経歴書と面接-ポテンシャルと熱意を「言語化」する技術

未経験者の場合、採用担当者は「これまで何をしてきたか」以上に、「これから何ができるか」、「どれほどの意欲があるか」を見ています。


学習意欲と客観的なスキルの証明

取得した資格(日商簿記2級など)は、最も分かりやすいアピールポイントです。

それに加え、どのような教材を使い、どれくらいの期間、どれくらいの熱量で学習してきたのかを、具体的なエピソードとして語れるように準備しておきましょう。

「独学で毎日2時間、半年間学習を続け、簿記2級に一発で合格しました」といったストーリーは、あなたの計画性や実行力を示す、強力な証拠となります。


前職の経験を「ブリッジ」させる

経理とは直接関係のない職種での経験も、見せ方次第で大きな武器になります。

・営業職であれば、予算管理や売上分析の経験を通じて培った「数字への強さ」や「目標達成意欲」。

・接客業であれば、多様な顧客とのコミュニケーションを通じて培った「調整能力」や「丁寧な対応力」。

・事務職であれば、ミスのない正確な書類作成を通じて培った「緻密性」や「業務遂行能力」。

これらのポータブルスキルが、経理の仕事でどのように活かせるのかを、具体的なエピソードと共に語ることが、他の候補者との差別化に繋がります。


「なぜ経理なのか」という志望動機を深掘りする

「安定して長く働けそうだから」といった、受け身の理由だけでは、採用担当者の心には響きません。

なぜ、数ある職種の中で、経理という仕事に魅力を感じたのか。

自らの価値観や、これまでの経験と結びつけて、説得力のあるストーリーを構築する必要があります。

「前職で営業として売上を追う中で、その数字がどのように会社の利益に繋がるのか、その裏側にある仕組みを深く理解したいと考えるようになった」といったように、具体的な原体験に基づいた志望動機は、あなたの本気度を伝えます。


企業選びの軸-最初のキャリアをどこで築くか

未経験者が経理として最初に働く企業は、その後のキャリア形成に大きな影響を与えます。

給与や知名度といった表面的な条件だけでなく、「どのような経験が積めるか」という視点で、企業を慎重に見極める必要があります。


教育体制の充実度

未経験者を育成する文化や、具体的な研修制度が整っているか。

OJTが基本となる場合でも、質問しやすい雰囲気があるか、メンター制度のようなサポート体制があるかは、重要なチェックポイントです。


業務範囲の広さ

最初はアシスタント業務から始まるとしても、将来的には月次決算や年次決算といった、経理の一連の流れを経験できる可能性があるか。

一部の業務に特化するのではなく、幅広い経験を積める環境の方が、長期的なキャリアの選択肢は広がります。


事業内容への共感

経理は、その会社の事業活動そのものを数字で表現する仕事です。

自分が心から応援したいと思える、共感できる事業内容の会社であれば、日々の業務にもより高いモチベーションで取り組むことができるでしょう。


キャリアの舵を自らの手に取り戻す

キャリアの舵を自らの手に取り戻す

未経験から経理職を目指す道は、決して平坦ではありません。

簿記という新しい言語の習得には、地道な努力が必要です。

実務経験がないという壁は、就職・転職活動において、何度もあなたの前に立ちはだかるかもしれません。


しかし、今回紹介してきたように、正しい戦略と、強い意志を持って一歩ずつ進んでいけば、その壁を乗り越え、専門職としてのキャリアを築くことは、十分に可能です。


重要なのは、誰かが与えてくれる「安定」を待つのではなく、自らの手で、専門性という名の「安定」を掴み取りにいく、その主体的な姿勢です。

なぜ、経理という仕事を通じて、社会や企業に貢献したいのか。

どのようなプロフェッショナルになりたいのか。

この問いに対する、あなた自身の答えを見つけ出すこと。

それこそが、学習のモチベーションを維持し、困難な時期を乗り越えるための、最も強力なエンジンとなります。


AIの進化は、経理の仕事から単純作業を奪い、私たち人間に、より本質的な価値提供を求めています。

それは、変化への適応を迫る「脅威」であると同時に、自らの市場価値を飛躍的に高める「機会」でもあります。


知識ゼロという現在地は、ハンデではありません。

それは、これからのキャリアという名のキャンバスに、自由な未来を描くことができる、スタートラインです。

その最初の筆を、どこに、どのように下ろすか。

その選択権は、他の誰でもない、あなた自身の手の中にあるのです。